第一章【バンド、脱退】

2/15
前へ
/35ページ
次へ
「じゃあよ、ジョンがバンド抜けるんだったら、一体誰が歌をうたうってんだ?」  狭いアパートの一室。  テーブルに身を乗り出し、眉を歪めながら歯を剥き出しにして問い掛ける、赤い髪の男。  ワンルームの汚い部屋には、だらしなく食べ散らかしたままのハンバーガーの箱とコカ・コーラの瓶、そしてアダルト雑誌が無造作に放り出されている。 「知らねえよ。  何なら俺がハーモニカからボーカルに転身してやってもいいぜ」  ソファーに深々と座って寛ぐ、オレンジ色した髪の男が答える。  綺麗な二重と丸い瞳を吊り上げて、文句でもあるか、と言わんばかりにふてぶてしく笑いながら、目線をテレビから赤い髪の男へ向ける。 「ハッタリも程々にしろよ、嘘吐きジャック。  そもそも君の所為でジョンとミミルが抜けたって言うのに、その態度は無いだろ。  ジョンが居ないなら、もうキャメルズは終わりさ。  このバンドに未来は無いよ」  黒いマッシュルームヘアーの下に厚い丸眼鏡を忍ばせて、肘をつきながら音楽雑誌を捲る座高の低い小柄な男が、目を伏せたまま低いトーンで付け足した。  
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加