1073人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「安部有香」
「はい」
マイクを通して、春山先生の澄んだ声が体育館に響いた。
名前を呼ばれたユカが、緊張した面持ちで壇上への階段を上がって行く。
壇の脇に立ち、名簿を手にその後姿を見送る春山先生。
その袴姿にうっとりと見惚れていると、背中をツンツンとつつかれた。
「萌、次っ」
「…え。あ」
わたしは慌てて立ち上がり、トトト、と壁際の定位置まで進んだ。
ユカが証書を受け取り、反対側の階段から壇を降りて行く。
「江藤茉莉」
「はい」
マリが壇上に上がると、わたしは次の定位置まで足を進めた。
この場所からは、春山先生の全身を見る事が出来る。
…かっこいい…。
我が高の卒業式では、担任は全員、袴を着用することが決まっている。
今朝、袴姿の春山先生が教室に入って来た時は、そのあまりの美麗さに、教室が歓声に包まれた。
当の本人は、「は?」という顔をしていたけれど。
「川島佐緒里」
「はい」
次の位置まで進むと、さらに春山先生の姿が近くなる。
…やばい…。
写メ、撮りたい。
わたしの殺気を感じたのか、先生がちらりとこちらを見た。
ドキドキして見つめ返していると、先生は素っ気なく目を逸らし、飾りつけられた名簿に目を落とした。
「斎藤朋子」
「はい」
トモコが壇上に上がったので、わたしは仕方なくそのベストショットな位置を離れ、先生の前を通り過ぎて階段の上がり口に立った。
袴姿の先生がすぐ後ろに居ると思うと、より緊張感が高まる。
最初のコメントを投稿しよう!