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「安部有香」 「はい」  マイクを通して、春山先生の澄んだ声が体育館に響いた。  名前を呼ばれたユカが、緊張した面持ちで壇上への階段を上がって行く。  壇の脇に立ち、名簿を手にその後姿を見送る春山先生。  その袴姿にうっとりと見惚れていると、背中をツンツンとつつかれた。 「萌、次っ」 「…え。あ」  わたしは慌てて立ち上がり、トトト、と壁際の定位置まで進んだ。  ユカが証書を受け取り、反対側の階段から壇を降りて行く。 「江藤茉莉」 「はい」  マリが壇上に上がると、わたしは次の定位置まで足を進めた。  この場所からは、春山先生の全身を見る事が出来る。  …かっこいい…。  我が高の卒業式では、担任は全員、袴を着用することが決まっている。  今朝、袴姿の春山先生が教室に入って来た時は、そのあまりの美麗さに、教室が歓声に包まれた。  当の本人は、「は?」という顔をしていたけれど。 「川島佐緒里」 「はい」  次の位置まで進むと、さらに春山先生の姿が近くなる。  …やばい…。  写メ、撮りたい。  わたしの殺気を感じたのか、先生がちらりとこちらを見た。  ドキドキして見つめ返していると、先生は素っ気なく目を逸らし、飾りつけられた名簿に目を落とした。 「斎藤朋子」 「はい」  トモコが壇上に上がったので、わたしは仕方なくそのベストショットな位置を離れ、先生の前を通り過ぎて階段の上がり口に立った。  袴姿の先生がすぐ後ろに居ると思うと、より緊張感が高まる。
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