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 放送部室の前で足を止め、わたしと田辺くんは顔を見合わせた。 「ほんと、何だろうね、用事って」 「いやー、わかんね。怒られるようなこと、した覚えないけどなあ」  田辺くんは疑わしげにわたしを見て、 「…椎名、どうせお前じゃねえの」 「え、違う…と思うんだけど…」  卒業式の予行練習が終わってから、春山先生の声で、田辺くんとわたしを呼び出すアナウンスが流れた。  二人で揃って放送部室に来るように、という事だったのだが、…その口調が何だか怒っているようだったので、わたしたちはやや怖気づいていた。 「とりあえず、椎名が先に入れよ」 「やっ、やだよ。田辺くんが先に入ってよ、男の子でしょ」 「じゃ、じゃんけん」 「…いいよ。じゃんけん」 「ほいっ。…ほら、お前が先いー。…椎名、お前絶対グー出す癖、直した方がいいぞ」 「えっ…。ズルイよ、そんなの純粋なジャンケンじゃない」 「データ分析も実力のうちなの。ほら、早く」 「やだやだっ、3回勝負」 「ダメだって、後からそんなの」 「だって」 「いいからほらっ」  田辺くんがわたしを盾にして、ドアノブを握った。 「いやーっ。助けてっ」 「おま、人聞き悪っ」 「きゃーっ、誰かっ。誰か助け…フゴ」  わたしの口元を塞いだまま、田辺くんが勢いよくドアを開ける。  パン、パン、と大きな音とともに火花が散り、わたしと田辺くんはひゃっと悲鳴を上げながら抱き合った。 「卒業、おめでとうございまーす」  クラッカーの火薬の匂いと共に、放送部員たちのよく揃った声が廊下に飛び出して来た。
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