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***  車に乗り込み、エンジンをかけてから、先生はぐっと手を伸ばし、わたしのシートベルトを引き出した。  カチ、と留め、わたしの顔を窺う。 「まだ、泣いてんの」 「…もう、泣いてません…」  わたしはぐずぐずと鼻を啜って、ハンカチを鼻の下に押し当てた。 「…ばかじゃないの。泣くことないのに」  先生は呆れたように言って、頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。  その手のひらがあまりにも優しくて、再び涙が浮かぶ。 「…ほらまた。…なんだよ、どうしたの」  わたしはごしごしと涙を拭いてから、先生の顔を上目づかいに見た。 「みんな、優しいから…」 「…え?」 「先生の、…お母さんも、和真さんも、翔平くんもマミさんも…。みんなわたしのこと、すごく大事にしてくれて…。 …それは、家族のみんなから、春山先生が大切に思われてるってことなんだと思うんです。 そう思ったら何ていうか、あったかい気持ちになって…涙が…」 「……」  先生はわたしの顔をしばらく見つめてから、ふっと顔を逸らした。 「まあ、…あの人たちも、暇だから。また、気軽に遊びに来いよ」 「…はいっ」  わたしがいいお返事をすると、先生は前方を見たままクスッと笑った。 「車、出すよ」  そして、ゆっくりとサイドブレーキを降ろした。
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