1252人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
***
車に乗り込み、エンジンをかけてから、先生はぐっと手を伸ばし、わたしのシートベルトを引き出した。
カチ、と留め、わたしの顔を窺う。
「まだ、泣いてんの」
「…もう、泣いてません…」
わたしはぐずぐずと鼻を啜って、ハンカチを鼻の下に押し当てた。
「…ばかじゃないの。泣くことないのに」
先生は呆れたように言って、頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
その手のひらがあまりにも優しくて、再び涙が浮かぶ。
「…ほらまた。…なんだよ、どうしたの」
わたしはごしごしと涙を拭いてから、先生の顔を上目づかいに見た。
「みんな、優しいから…」
「…え?」
「先生の、…お母さんも、和真さんも、翔平くんもマミさんも…。みんなわたしのこと、すごく大事にしてくれて…。
…それは、家族のみんなから、春山先生が大切に思われてるってことなんだと思うんです。
そう思ったら何ていうか、あったかい気持ちになって…涙が…」
「……」
先生はわたしの顔をしばらく見つめてから、ふっと顔を逸らした。
「まあ、…あの人たちも、暇だから。また、気軽に遊びに来いよ」
「…はいっ」
わたしがいいお返事をすると、先生は前方を見たままクスッと笑った。
「車、出すよ」
そして、ゆっくりとサイドブレーキを降ろした。
最初のコメントを投稿しよう!