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車が小路から大通りに頭を出し、左側のウインカーが点灯する。
…いよいよ…。
わたしはシートベルトを握りしめた。
いよいよ先生とわたしの、…大人の時間…。
二人きりの車内には、いつものようにラジオのニュースが流れている。
春山先生は右からの車の流れを身を乗り出して見ていたが、ふとこちらに顔を向けた。
ドキッとして、顔をひきつらせながら笑顔を作る。
「お前さ。…今日…」
「…はいっ」
「10時半でいいんだよな」
「……」
え。
「ギリギリ、間に合うと思うんだけど、…もし間に合わなそうだったら、おうちに電話入れてくれる?」
「……」
わたしは先生の顔をじっと見つめた。
「先生…」
「なに?」
「あの…。今日は、…まっすぐ帰るってことですか」
「え?…なに、どこか寄るの。…コンビニ?」
「……」
「何だよ」
「……」
わたしは小さな声で、ぽそりと呟いた。
「お泊りして来るって、お母さんに言っちゃった…」
「……」
先生はウインカーを止め、サイドブレーキを引いてから、わたしの顔をまじまじと見つめた。
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