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「…もう、いいです…」  鼻を啜りながら言う。 「わたしが一人でその気になっちゃうのは、…どうせ、いつものことですから。  今日は、帰ります…」 「……」 「でも、おうちにはお泊りって言っちゃってるから、駅前で降ろしていただけますか。私服に着替えてマンガ喫茶でひとりぼっちで朝まで時間潰します。  大丈夫です、怪しい人に声かけられて路地裏に連れ込まれるかもしれないけど、わたし、一人でも危機を乗り越えて見せますから」 「……」  ちら、と顔を見ると、春山先生は、ハンドルに頬杖を突き、じっとわたしの小さな抵抗に耳を傾けていた。  …困ってる…。  わたしは駄々をこねたことを申し訳なく思いながらも、ぷいと顔を逸らし、窓の外に目をやった。  ちょうど車の波が途切れ、大通りは暗闇に包まれている。  ずっと以前にも、こんなことがあった。  先生が初めて、あの展望台に連れて行ってくれた日だ。  もう少し先生と一緒に居たかったわたしが、「置いて帰ったら夜の街を彷徨う」って脅かして…。  先生は困りながらも、わたしのワガママを聞いてくれたんだった。 『後ろ暗い恋なんて、…人に言えないような恋なんて、お前には、させない。  だから…もう少し、我慢してほしい』  今よりずっと子供だったあの時は、先生がくれたあの言葉の本当の意味を、理解出来ていなかった。  でも、今はわかる。  先生がどんなにわたしとの将来を大切に思ってくれているのか。  そして、それがどれだけ、幸せなことなのか。  わかるんだけど…。  …私ってば、相変わらず駄々っ子…。  自己嫌悪に陥りつつ、…でも、今回だけは、引き下がりたくない。  だって、…卒業式の夜を、わたしはずっとおりこうにして、待ってたんだもん…。
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