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『それでは続きまして、関東甲信越地方の明日の天気をお伝えします』
ラジオの天気予報を聞きながら、ボーッと外を眺めていると、大きな手が頭のてっぺんに添えられ、くりっと顔を回転させられた。
目の前には、先生の真剣な顔。
「…ごめん。やっぱり、まだお前に手は出せない」
「……」
「合格発表の後、ご両親にちゃんとご挨拶して、認めてもらってからにしよう。
…お前を大事に思うお父さんの気持ちを考えたら、そこは筋を通さなきゃ。
ただでさえ、教師と生徒っていう関係は、世間から見たらあまり健全とはいえないんだから、普通より慎重になる必要があるんだよ。
…俺が言いたいこと、わかるだろ?」
「……」
しょんぼりしながら、小さく「はい」と応える。
「おりこうだね、椎名」
先生はシートベルトをかちゃりと外し、身を乗り出した。
おそらく極限まで飛び出しているわたしの下唇をちゅっと吸ってから、おでこに口づける。
「じゃ、今日はちゃんと帰る?」
わたしはこくり、と頷いて、
「駅前で降ろしてください…。出来ればマンガ喫茶の前で…」
「…………」
先生が苦虫をかみつぶしたような顔をしたところで、後方からライトが照らされた。
振り向くと、車が一台、近づいてくるのが見える。
先生は手早くシートベルトをかけると、じろ、とわたしを見た。
「…言っておくけど、今夜は本当に何もしないからな。…俺は別の部屋で寝るから」
そう言って、今度は右にウインカーを出した。
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