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リビングに灯りが灯ると、先生は運んでくれた大きなバッグを絨毯の上に置いた。
「何が入ってんの、これ」
訝しげな先生の問いに、いろいろです、と答えておいて、わたしはぐるりと部屋の中を見渡した。
以前、昼間にお邪魔した時と雰囲気が違って見えるのは、今が大人の時間だからだろう。
コートを脱ぐ先生も、心なしか何となく色っぽいような…。
「楽にしてて。今、紅茶でも淹れるから」
ガス暖房のスイッチを入れると、一気に吹き出し口から熱風が吐き出される。
先生は、実家からすでに緩めてあったネクタイをシュッと外し、スーツの上着も脱いでから、私の方に空いている手を差し出した。
「上着」
「あ、はい…」
ボタンを外し、コートを脱ぐと、すぐにするりと手から離れていく。
寝室に向かう先生の背中を見つめながら、わたしはくふっと笑いを漏らした。
…先生と、朝まで一緒。
しかも、ふたりきりだなんて…っ。
「くふ、じゃないよ」
寝室からむすっとした声が飛んで来る。
「紅茶飲んだら風呂に入ってさっさと寝ろよ」
「…はいっ」
おりこうな返事をしておいてから、密かにもう一度、くふ、と笑うと、
「だから、くふ、じゃないって」
「……」
いいじゃん別に、「くふ」くらい。
だって…嬉しいんだもんっ。
わたしが締まらない顔でにやにやしていると、それを見た春山先生は心底呆れた顔をして、スタスタとキッチンの方に行ってしまった。
…めげないしっ。
「先生、お手伝いしますっ」
わたしは、てててっとその後を追った。
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