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「お義母さん、この唐揚げ美味しい」 「でしょっ?衣を付ける前に、粒マスタードをなじませるのよ」 「なーるほど」 「かーちゃん、コーラお代わり」 「翔平、さっきからコーラばっかり飲んでるでしょ。ちゃんとご飯食べなきゃだめよ」 「ちゃんと食べてるよ、ほら、唐揚げとか」 「美味しいでしょ、それ、ばあばが作ったのよ」 「うん、めちゃめちゃ美味しい」 「あらいい子ねー。もっと食べてね」 「おい翔平、野菜も食べないとダメだぞ。よし、とーちゃんが小皿に取り分けてやる」 「あっ、やだ、アスパラ入れないでよお」 「好き嫌い禁止」 「ずるいよ、とーちゃんだって焼き鳥のネギ避けてるじゃん」 「あらっ。…ちょっと、パパ!ネギ間のネギ避けたらネギ間じゃないじゃないっ」 「だって緑のとこ入ってるからさあ」 「あら、お母さんそこ好きだから、残すならここに乗せて、和真」 「お義母さん、いいんですっ。自分で食べなきゃいつになっても食べられるようになりませんから」 「おい、おま、自分の旦那と子供とを同じ扱いにするんじゃないよ」 「何言ってんの、翔平の方がよっぽどおりこうです」 「なっ、マミ、お前なあ、そういう所から父親の威厳が損なわれ…。おい、なに笑ってんだ、テツっ」 「……」  テーブル上で行き交う築地市場のような生きのいいやりとりに呆気に取られていると、 「椎名さん、遠慮しないでどんどん食べてねっ。今日は椎名さんの卒業のお祝いなんだから」  先程紹介されたばかりの春山先生のお母さんが、テーブルの奥の席からにっこりと笑いかけてくれた。 「はいっ、ありがとうございますっ」  わたしはぴんと背筋を伸ばし、唐揚げの乗った小皿を手に取った。 「今日はテツのお祝いじゃなかったのかよ」 「何言ってるの、卒業の主役は教師じゃなくて、あくまで生徒さんなの」  春山家の食卓は、想像以上に賑やかだった。  和真さんとマミさんの、主に翔平くんと食べ物をめぐる絶妙なやり取りに、春山先生が時折、声を上げて笑っている。
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