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「ど、どど、どうして?」 「すごく、仲良しだから」 「そ、そう…?ありがとう…」  …お嫁さん…。  春山先生の、およめさん…。  モジモジと俯いて、絨毯の毛をぶちぶちとむしっていると、 「しーなさん」 「はい…」 「しーなさんの下の名前、教えてよ」 「…えっ…」  驚いて顔を見ると、翔平くんは期待を込めた目でわたしを見ている。 「も、もえ、です…」  ドキドキしながら答えたわたしを、コハク色の瞳ががっちりと捕え、釘づけにした。 「萌」 「…は、はいっ…」  裏返った声で答えると、翔平くんはにっこり笑って、すっくと立ち上がった。 「ありがと、しーなさん」 「え」 「これでとーちゃんに、ライダーの限定カード、ネットオークションで落札してもらえる」 「……」  はい?  狐につままれたような状態でぽかんと見上げると、翔平くんはトトトッと部屋を飛び出し、 「とーちゃーん、下の名前、もえだってーーー」 と叫びながら階段を下りて行った。 「……」  まさか、翔平くんが刺客だったとは…。  あの瞳にあの無邪気という組み合わせはもはや、最強の凶器…。 「和真さんの卑怯者…」  極限まで脱力したまま座り込んでいると、開いたままのドアがコンコン、とノックされた。 「椎名」   放心状態で振り返ると、廊下から春山先生が顔を出していた。 「そろそろ、行くよ。支度して」
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