-1-

8/15

1252人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 ローファーを履いて振り返ると、玄関先に集合した春山家一同がニコニコ笑顔を浮かべていた。 「椎名さん、翔平のカードの話、聞いてくれてありがとう。また遊びに来てね、喜ぶから」  マミさんが翔平くんの肩に手を置いてにっこり笑った。  その優しさにほんわかしながら、はい、と答える。  翔平くんの顔を見ると、こっそり和真さんといたずらっぽい笑みを交わしていた。  …末恐ろしい…。  翔平くんから発せられている魅惑の引力を改めて実感していると、 「椎名さん」  春山先生のお母さんが一歩前に踏み出し、わたしの右手を握った。 「今日は、来てくれてありがとう」 「い、いえっ、こちらこそ、お招きありがとうございます。美味しいごはんをご馳走様でした」  緊張しながら柔らかな手を握り返す。  お母さんはわたしの顔をじっと見つめてから、とても穏やかに微笑んだ。 「哲哉を、よろしくお願いします」 「……」  その瞳を見つめ返しているうちに、なぜか涙がこみ上げそうになり、私は慌ててそれを堪えた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1252人が本棚に入れています
本棚に追加