加藤次景廉が事

2/2
前へ
/29ページ
次へ
さてさて。 加藤次景廉(かとうじかげかど)という人が居た。 彼の先祖は、 「都をば霞と共に出だしかど 秋風ぞ吹く白川の関」 という立派な歌を詠んだ能因入道(のういんにゅうどう)で、彼はその4代目の子孫である。 猪突猛進の猪武者で、とっても強い。 彼はいつも頼朝のところに来ていたのだが、最近は不審に思われて集まりにも呼んでもらえなかった。 だから自分で準備していたのだけれど、妙な胸騒ぎがして、 紫縅(むらさきおどし:鎧の一部)の腹巻に、太刀(たち)を差し、子どもの洲崎三郎(すさきのさぶろう)を連れて頼朝のもとに向かった。 頼朝の家に入ってみると、頼朝は手足に防具をつけて、小さい長刀(なぎなた)を持ったまま、縁側のところに立っている。 一体何が起きてんだ…?と思っているところに、頼朝は景廉を見るなり、 「おぉ、よぉ景廉じゃんっ!こっちこいよっ。 この間は不審なことがあって呼ばなかったけど、いやーうん、来てくれたんだ。 俺たちってば天皇からの命令で、平家を滅ぼすんだわ。 まずは兼高を倒そうと思って、北条さんと佐々木たちに行ってもらってんの。 倒したら火ぃ点けるとか言ってたなぁ…。 まだ煙見えないし、殺り損ねたかな? いやぁもう心配だねぇ~。 ところでなんだけど、ここ、人が居なくなるからさ、景廉はここに居てお留守番しててよ」 と言う。 加藤次は聞かずに、 「そんなに心配すんなや。 色々あったけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないやんか。 あんたの家、案外、人多いし、わいが居なくても平気やろ。 今夜の夜討ちは、わいが行くで。 あんたに命捧げとるんやし、さっさと兼高を討ち取ってくるわ。 ほんじゃま、行ってくるでー」 と言い捨てて立ち上がる。 「ちょっw待てって景廉wお前にプレゼントあるから持ってけよw」 と言って、緋縅(ひおどし)の鎧に、白星(しらほし:白丸)のついた兜(かぶと)と、夜討ちには柄の長いものがいいと言って、こっそり持ってきた小長刀(こなぎなた)を出してくれた。 景廉はこれを貰って喜び、頼朝の仲間の一人と(来るとき連れてきた)洲崎の2人を連れて、八牧(やまき)の家に急いだ。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加