序の項「帰郷」

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集落から少し離れた道を進むと、他の家屋より一回り大きな建物が見えてきた。 扉の前に立つと、一度息を抜き、レイカは目一杯元気な声を出して扉を開けた。 『ただいま戻りました!』 …レイカを迎えてくれる者はいない。 「わっ!こんなに埃(ほこり)が積もってる…よーし、頑張ってお掃除しなきゃ!」 今、この家にはレイカしか住んでいない… 両親はとある事件で幼い頃に大地へ還った。 唯一の肉親である兄も、掟に従い国を出てからもう7年になる。 それでもレイカは家に帰った時は必ずそれを言葉にする。 僅かに記憶に残る団欒(だんらん)とした一家の雰囲気を忘れないためにーー …家には雑巾がけをするレイカの足音だけが響いた。 傾(かたむ)きかけたオレンジ色の太陽は、遠くで静かにレイカを見守る。
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