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私の手を取りながら、ゆっくりと一歩ずつ進んでいく風見君。
隣にある、背の高い肩を見上げていると、彼は静かに口を開いた。
「そうだ……前に会ったとき、言い忘れていたんだけど。」
「何を……?」
「俺、ちゃんと彩月に報告してきたから。唯とのこと。」
そう言って立ち止まると、彼の真剣な瞳に捉えられる。
その真面目で誠実な性格が、何よりもいちばん大好きだと気づかされる。
「彩月の分まで大切にするって、約束してきた。」
私のことを、そんな風に話してくれていたことが嬉しかった。
他でもない彩月さんに……。
込み上げてくる涙を必死に止めようとしている私に、風見君は戸惑うように窘める。
「……って、泣くところじゃないって。」
「泣くところだよ……。」
風見君にとって、彩月さんがどれほど大切な存在だったかを知っているから。
彼女を越えられるなんて思っていなかったから。
「あのさ……唯。」
「ん?」
「今日……うちで勉強しないか?」
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