【9】

11/19

4083人が本棚に入れています
本棚に追加
/518ページ
. 私の手を取りながら、ゆっくりと一歩ずつ進んでいく風見君。 隣にある、背の高い肩を見上げていると、彼は静かに口を開いた。 「そうだ……前に会ったとき、言い忘れていたんだけど。」 「何を……?」 「俺、ちゃんと彩月に報告してきたから。唯とのこと。」 そう言って立ち止まると、彼の真剣な瞳に捉えられる。 その真面目で誠実な性格が、何よりもいちばん大好きだと気づかされる。 「彩月の分まで大切にするって、約束してきた。」 私のことを、そんな風に話してくれていたことが嬉しかった。 他でもない彩月さんに……。 込み上げてくる涙を必死に止めようとしている私に、風見君は戸惑うように窘める。 「……って、泣くところじゃないって。」 「泣くところだよ……。」 風見君にとって、彩月さんがどれほど大切な存在だったかを知っているから。 彼女を越えられるなんて思っていなかったから。 「あのさ……唯。」 「ん?」 「今日……うちで勉強しないか?」 .
/518ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4083人が本棚に入れています
本棚に追加