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そこは彼の名前も知らない私が、安易に立ち込めるテリトリーではないと思ったから。
「……あんな暗い奴の、どこがいいんだ?」
いちばん遠く離れた扉の窓から、今日も変わらずに外を眺めている彼を見つめていた私に、颯は呆れ口調で訊いてくる。
それに対しては百香が代弁してくれた。
「そりゃあ、どこかの誰かさんみたいに、煩くなくて落ち着きがあるところじゃないの?」
「それは、どこのどいつだ?」
「いや、確実にあんたでしょ。」
別に颯がどうだとかは問題ではないのだけれど、確かに彼は私が今まで出逢ったことのないタイプの人だった。
男友達が多いわけではないけれどクラスメイトとは普通に話もするし、十人十色とは言っても、やっぱりみんな似たようなものだ。
けれども彼は少なくとも、周りにいる男の子とは違う。
私にはそう思えた。
すると、颯は珍しく真面目な顔をしながら、独り言のように小さく呟く。
「……唯には似合わないよ、ああいうタイプは。」
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