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前に一度だけ話してくれた夢の話。
辛い過去から目を逸らさずに、きちんと目標として掲げられる彼を、心底格好いいと思った。
「……風見君は、明確な夢があっていいなぁ。」
「それは唯のほうだろ。好きなことを夢にできるなんて格好いいじゃん。」
「……。」
「俺は、そんな真っ直ぐな唯が……好きだよ。」
その言葉は、周りの雑音を掻き消す威力があった。
実際には周囲は騒がしいままだったけれど、私たちを包み始める特別な雰囲気。
「……ちなみに、唯はどこの音大受けるの? 札幌?」
「ううん。東京の大学に……お母さんの知り合いの先生がいて。その人のところで勉強したいなぁって……」
雅さんに連れられて、何度か演奏会にも出向いたことがある。
母と同じ舞台で活躍していた人で、母とは古くからの親友でありライバルで。
初めて彼女に会ったとき、その独特な奏法に一瞬にして心を奪われた……。
「じゃあ……頑張って、一緒に合格しないとな。」
「え……?」
「同じ東京の空の下なら……こんな風に、いつだって会えるしさ。」
そう言いながら、風見君は嬉しそうに笑いかけてくれる。
その笑顔は私の原動力だ。
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