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「先生、そこの例文の訳し方なんですけどー。」
授業中、聞き慣れた声が教室中をざわめかせる。
今まで、『授業時間=睡眠時間』だと称していた颯が、まるで別人のように真面目に授業を受けていた。
しかも、先生に質問までしている。
これは……何かのドッキリだろうか。
「……どうした水瀬? お前が質問するなんて、頭でも打ったか?」
「それ、失礼満載なんじゃねーの?」
ふたりの会話に教室中が笑いの渦になる中、私の頭には大きな疑問符しか思い浮かばない。
すると、隣の席の百香が、そっと耳打ちをしてくる。
「あいつ……最近、放課後に図書室で勉強しているみたい。」
「え?」
「他のクラスの子から聞いたんだけど。」
最近、教室の中でしか顔を合わせない。
クラスメイトとしての必要最低限の会話はするけれども。
基本的には、男友達と一緒にいることが多くなった。
「……颯は、就職組だと思ってた。」
「私も……。」
「ま、この2年間丸々捨ててきた奴が合格できるほど、受験は甘くないっつーの。」
そういう百香も、この2年間はわりと好き勝手に遊んできた方だと思う。
そんな彼女からの言葉には重みを感じた。
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