【10】

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. 鼓動が少し早いのは、小走りで帰ってきたから。 颯が原因じゃない……。 そう自分に言い聞かせて玄関の扉を開けると、そこには仕事から帰ってきたばかりの雅さんの姿があった。 「あら、出かけていたの?」 「うん……。その、裕子おばちゃんのところに……」 「……何か、あったの?」 「えっ、別に………」 息を整えながら話す私を、雅さんは怪訝な顔をしながら見つめてくる。 隠し通せるものではない。 私のことを、誰よりも知っている人なのに……。 「……チーズケーキ買ってきたから、一緒に食べようか。」 「……。」 「最近忙しくて、ゆっくり話す時間もなかったもんね。」 そう言って、雅さんは私の背中を押してくれる。 その手は温もりで溢れていた。 私のお気に入りの店のチーズケーキ、大好きなミルクティー。 年明けから演奏会が続き、1週間のうちの半分以上は留守にしていた雅さん。 こうして家族団欒のひとときを過ごすのは、本当に久しぶりで照れ臭くなる。 「そういえば、彼とは上手くいっているの?」 「うん。今日も、一緒に映画を観に行ってきたよ。それでね……」 .
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