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鼓動が少し早いのは、小走りで帰ってきたから。
颯が原因じゃない……。
そう自分に言い聞かせて玄関の扉を開けると、そこには仕事から帰ってきたばかりの雅さんの姿があった。
「あら、出かけていたの?」
「うん……。その、裕子おばちゃんのところに……」
「……何か、あったの?」
「えっ、別に………」
息を整えながら話す私を、雅さんは怪訝な顔をしながら見つめてくる。
隠し通せるものではない。
私のことを、誰よりも知っている人なのに……。
「……チーズケーキ買ってきたから、一緒に食べようか。」
「……。」
「最近忙しくて、ゆっくり話す時間もなかったもんね。」
そう言って、雅さんは私の背中を押してくれる。
その手は温もりで溢れていた。
私のお気に入りの店のチーズケーキ、大好きなミルクティー。
年明けから演奏会が続き、1週間のうちの半分以上は留守にしていた雅さん。
こうして家族団欒のひとときを過ごすのは、本当に久しぶりで照れ臭くなる。
「そういえば、彼とは上手くいっているの?」
「うん。今日も、一緒に映画を観に行ってきたよ。それでね……」
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