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それは夏休みが明けたばかりの、始業式の日のことだった。
いつものように私は、1時間に1本しかない電車に乗るために、7時前には家を出る。
15分ほど歩くと見えてくる小さな駅のホームは無人駅で、電車が来る時間以外は人通りも少なくて閑散としている。
路面電車に近い開放的な駅は、この街ならではの風景らしい。
ゆっくりとスピード下げて停まる2両編成の車内は、すでに同じ制服を着た、見慣れた人でいっぱいだ。
学校に着くにはまだ早いこの電車を逃すと、次の電車では1時間目に間に合わない。
なので嫌でも、これに乗ることを余儀なくされてしまう。
「唯、おはよー!」
定位置のいちばん後ろの扉に立っていると、私の名前を呼んでくれたのは百香だった。
短い髪に二重瞼の、綺麗な顔立ちをした女の子。
「おはよ、百香。」
「あれ……颯は? 一緒じゃないの?」
「家寄ったんだけど、寝坊したみたいだから先に来ちゃった。次の電車で来るんじゃない?」
「あらま。新学期早々に遅刻決定か。」
少し馬鹿にしたような百香の口調に、今ここに颯がいたら間違いなく口喧嘩になっていだことだろう。
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