【16】 sudden point

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. 日本から帰ってきて数日、地元の音楽祭は盛り上がりを博していた。 来月は私の参加する公演が始まる。 そのために今は只管にピアノに向かう日々。 家にいるときは朝から晩まで憑りつかれたように弾き続け、疲れ切ってピアノの鍵盤に頭を乗せたまま寝てしまうこともしばしば。 その度にいっちゃんに心配をかけてしまう。 「唯、またこんな所で器用に寝て……風邪ひいたらどうすんの?」 いっちゃんの声に目が覚め、時計に目をやると21時を回っていた。 「……おかえりなさい。もうこんな時間?」 「ただいま。この様子だと夕飯もまだだろ? 帰りにテイクアウト買ってきたから、一緒に食べよう。唯の分もあるからさ。」 そう言って、彼は右手に持った大きめの紙袋を私に見せてきた。 駅前の細路地にある、日本食の美味しいレストランのものだ。 中を覗くと、美味しそうなお惣菜が幾つも入っている。 私の嗜好の的をと射た料理の数々。 「用意するから、唯はテーブルの上を片付けてくれる?」 「はーい。」 乱雑に置かれた譜面を1ヶ所にまとめると、空いたスペースに次々に並べられる料理。 そして赤ワインが入ったグラスがふたつ。 それには、ちゃんと理由がある。 食事を始めて他愛もない話をしている合間に、彼がふと訊いてきた。 .
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