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「……ゲネプロ、順調?」
「まあ、もうすぐだからね。本番楽しみにしておいてよ。」
初めて出逢ったころから変わらない表情。
音楽に対して彼は、いつでも自信に溢れている。
「もちろん、楽しみですとも。」
いっちゃんの参加するオケは、毎回きちんと聴きに行っている。
学生のころから、彼の弾くバイオリンが本当に好きだったから。
「前みたいに、公演時間を見間違えないようにしてね。」
「あっ……あれね! でも間に合ったんだから、いいじゃん。」
「ほんと、唯はそそっかしいところあるから。放っておけないな。」
そう言いながら、寝そべりながらソファーを陣取っていると、目の前にいっちゃんが座る。
彼が伸ばした大きな手がそっと頬に触れると、まるで飼い主にあやされている猫のように、私はその優しさに甘える。
「唯は練習どう? なかなか苦戦しているみたいだけれど。」
「そうだね……。まあ、公演までには何とかなるよ。」
いつも何だかんだ言いながらも、最後はそれなりに上手くいくことを、私は身をもって何度も経験している。
だからこの時も、そんな風に軽く考えていた。
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