【16】 sudden point

13/31
前へ
/518ページ
次へ
. 急に演奏を止めた私を、慶子さんは怪訝な目をして見てくる。 きっとその時、私の表情には余裕さは全くなかったのだろう。 何事もなかったかのように演奏を再開しようとも、指は固まったまま動こうとはしてくれない。 「もしかして……動かないの?」 「……最近たまに……こんな風に、演奏中に固まってしまうことがあるんです。 休めばマシになるから、多分……軽い腱鞘炎だと思う。」 「痛みはあるの?」 慶子さんの言葉に首を振る。 練習のし過ぎで腱鞘炎になることはあっても、それは必ず痛みが伴うもの。 そして痛みさえ我慢できれば、自分の意思でどうにかできる範疇なのだ。 「……今から、病院行きなさい。」 「え、でも……」 「いいから行きなさい。私も……付き添うから。」 「………はい。」 いつもより低い声のトーンが、深刻さを物語っている。 慶子さんが一緒に来てくれるならと、私はその言葉を受け入れた。 こっちに来てから大きな病気には一度も罹っていないから、ひとりで病院に行くのも少し不安だった。 いっちゃんには余計な心配はかけたくなくて隠していたので、今は彼女の存在がとても有り難かった。 .
/518ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4109人が本棚に入れています
本棚に追加