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慶子さんが時々お世話になっているという先生は、大学から歩いて5分ほどの病院に勤めていた。
パッと見では病院と判断できないような建物の作りの中は、特有の物々しい雰囲気やアルコールの香りが全くない。
こじんまりとしたカフェのようだ。
受付を済ませてくれた慶子さんと私は、そのまま奥の部屋へと通される。
ノックをして中へ入ると、そこには慶子さんと同じくらいの歳の女性が、椅子に腰を掛けて待っていた。
パチッと目が合ったので、小さくお辞儀をする。
青い瞳をした綺麗な人だ。
すると慶子さんは、私に話すように日本語で彼女に話しかける。
「急にごめんね、リサ。」
「大丈夫よ、他でもない慶子からの頼みなんだから!」
その見た目からは想像がつかない程に流暢な日本語を話す彼女。
ふたりの様子を傍観していると、慶子さんは私の背中をそっと押した。
「彼女、日本にいた時期もあるから、日本語で大丈夫よ。」
「え?」
「今の指の具合のこと、きちんと彼女に話しなさい。」
そして私に気遣ってか、自分は外で待っているからと部屋を出ていく。
リサさんとふたりきりになった部屋は少しだけ緊張感に満ちていたが、彼女の穏やかな口調で落ち着きを取り戻すことができた。
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