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いっちゃんの問いかけに、慶子さんは代わりに全てを話してくれた。
私は彼の反応を見るのが怖くて、ずっと俯いたままだった。
話が終わると僅かな沈黙が訪れ、最初に響いたのはいっちゃんの低い声だった。
「……慶子さん。」
「ん?」
「俺……唯とふたりで、話がしたいです。」
「……そうね。そのほうがいいわ。」
その言葉に慶子さんも同意し、私たちに気遣いながら静かに部屋を出て行った。
ふたりきりで残された部屋には、いつもの温かくて穏やかな空気は流れていない。
話がしたいと言ったものの、全く口を開かない彼のことが気になり、ゆっくりと顔を上げる。
すると彼は真っ直ぐな視線で、私を見つめていた。
「……いつ、異変に気付いたの?」
「………1週間前、くらい。」
「……どうして、相談してくれなかったの? そんな大事なこと。」
私が彼の立場なら、きっと同じことを訊いている。
そして彼もきっと、同じ選択をしているだろう。
私以上に忙しそうな彼に、余計な心配をかけさせたくなかった。
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