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悔しいくらいの晴天に恵まれた週末。
本来ならサロンパーティでピアノの演奏をする予定だった今日、私は、いっちゃんと一緒に家で過ごしていた。
あれから指の具合は回復することも悪化することもなく平行線をたどっている。
そして、リサさんに紹介してもらった大きな病院で、再度検査を受けている最中だ。
いっちゃんは、私のことを気にして、一緒にいるときは音楽の話を全くしなかった。
部屋のピアノにはカバーがかかったままで、こんなにピアノから離れたのは、初めてだった。
「午後からは街に行こう。前に行った美味しいレストランで、夕飯も食べよう。」
「うん……じゃあ、支度するね。」
気持ちは落ち着いている。
いや、落ち着かせようと努力している。
今の私にできることは何もない。
だからせめて、感情的になり、周りの人たちに迷惑をかけないようにと。
ここのところ仕事で忙しかった彼と、久しぶりの外出。
普段よりも念入りにメイクをして、お気に入りの服を着ていく。
準備を終えて自分の部屋から出ると、私の姿を見て、いっちゃんの表情が緩むのに気づく。
どうやら、このコーディネートは気に入ってもらえたようだ。
「俺の、いちばん好きな服だね……それ。」
「うん。だから、選んだんだよ。」
こんな些細なことで喜んでくれる彼が、心から好きだと思える。
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