【16】 sudden point

21/31
前へ
/518ページ
次へ
. 普段から運動不足なこともあり、少しあちこち歩き回るだけで疲れてしまう。 その度に、目についたカフェに入って休憩をし、美味しそうなスイーツを注文する。 そんな私に呆れもせず、いっちゃんは寛大な微笑みを向けてくれる。 思えばこの街に来てから、夢を近づくために毎日必死で、こんなに穏やかな時間を過ごしたことがなかった。 そのことを今になって後悔する。 もっと色々なものに触れていたら、また違った音を奏でることができたのだろうと。 「なぁ………唯。」 「ん?」 「俺も明日……一緒に、病院いくから。」 チーズケーキを頬張っていると、いっちゃんが不意に告げた言葉。 そう……明日は、検査の結果が出るのだ。 「……うん、わかった。」 ここ数日、ピアノに近づかなかった。 他のことをしているときは普通なのに、弾こうとすると、まるで暗示がかかったかのように指が動かなくなる。 そんな現実を重ねるのが嫌で、自然と遠ざけるようになっていた。 大好きなのに、どうすることもできない。 それはまるで、恋愛と同じだと思った。 .
/518ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4103人が本棚に入れています
本棚に追加