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普段から運動不足なこともあり、少しあちこち歩き回るだけで疲れてしまう。
その度に、目についたカフェに入って休憩をし、美味しそうなスイーツを注文する。
そんな私に呆れもせず、いっちゃんは寛大な微笑みを向けてくれる。
思えばこの街に来てから、夢を近づくために毎日必死で、こんなに穏やかな時間を過ごしたことがなかった。
そのことを今になって後悔する。
もっと色々なものに触れていたら、また違った音を奏でることができたのだろうと。
「なぁ………唯。」
「ん?」
「俺も明日……一緒に、病院いくから。」
チーズケーキを頬張っていると、いっちゃんが不意に告げた言葉。
そう……明日は、検査の結果が出るのだ。
「……うん、わかった。」
ここ数日、ピアノに近づかなかった。
他のことをしているときは普通なのに、弾こうとすると、まるで暗示がかかったかのように指が動かなくなる。
そんな現実を重ねるのが嫌で、自然と遠ざけるようになっていた。
大好きなのに、どうすることもできない。
それはまるで、恋愛と同じだと思った。
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