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「……少し、考えます。これからのことは。」
けれども、今すぐに何かを行動に移せるような心境ではない。
まだ、そこまで気持ちを割り切ったわけではない。
気丈に振る舞ってはいても、内心は先の見えない未来に不安が募るばかりなのだから。
「……わかったわ。何かあったら遠慮なく来てね。」
「はい……。ありがとうございます。」
部屋を出ていくとすぐに、外で待っていたいっちゃんと目が合った。
不安げな瞳を向けてくる彼に対して、私はにこりと微笑み返した。
恐らくそれが悲しさを隠した表情だったことに、彼はきっと気付いている。
「いっちゃん……あのね………」
「とりあえず、帰ろうか。」
「え?」
私が聞き返すと、いっちゃんは優しく手を握ってくれた。
もうピアノを奏でることのできない左の小指に、彼の温かい体温が伝わる。
「……何も、不安に感じることはないよ。俺が、ずっと傍にいるから。
絶対に大丈夫なんて無責任なことは言えないけど……。
でも、唯の辛いことは、俺も一緒に受け止めていくから。」
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