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いっちゃんの言葉を素直に嬉しいと思える反面、行き場のない思いも芽生える。
それは「失っていない」からこそ言える理想論であって、私の気持ちは私にしかわからない。
分かってもらおうなんて思っていない。
こんな苦しみを分かち合って、同じように苦しむ彼の姿は見たくない。
それなら、いっそのこと……。
「いっちゃん……。」
「ん?」
「私ね……ここ最近、ずっと考えていたことがあったの。」
「何を考えていたの?」
ゆっくりと歩きながら話を進める。
眠れない夜を過ごしながら、毎晩のように考えていたこと。
その考えは日を追うごとに、はっきりとした結論へと変わった。
「もし本当にジストニアを患っているのなら、今までと同じようにピアノを弾き続けることは難しいと思う。だから……」
「だから?」
「私が……この街にいる理由、もうないの。」
雅さんの夢を追いかけて、この街でピアノをしたくて毎日ここで生きてきた。
でも……今までみたいに弾けないのなら、私の夢物語はそこで終わりだ。
「私……日本に、帰ろうと思う。」
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