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本当は誰かに甘えたい。
全てを捨てて、何事もなかったかのように最初から始めたい。
ずっと傍に居てほしいと言ってくれた彼の傍で、彼の幸せを支えることができれば、それは私にとって間違いなく平穏で幸せな日々だと確信している。
けれども、私には選ぶことができない。
弾くことを諦め、この街で暮らしていくことを。
「それに私、いつも与えてもらうばかりで、いっちゃんに甘えてばかりだった。」
「……そんなことないよ。」
「ううん……。いっちゃんの優しさに……当たり前のように注いでくれる愛情に、甘えきっていたの。
居心地が、本当に良かったから……。」
そして、気づいてしまった。
彼は私にとって、家族のような存在だったことを。
付き合っていく上でこういう関係もあることを初めて知った。
でも、本当は…………。
「俺は……唯の傷を、少しは癒せたのかな?」
「……。」
「忘れられないヤツの代わりに、なれたのかな……。」
「……代わりなんかじゃないよ。いっちゃんは、いっちゃんだよ……。」
口には出さなかったけれど、きっと彼は心のどこかでずっと、そんな想いと戦っていたのだろう。
彼を不安にさせてしまっていたのは、与えられてばかりで与えることができなかった私の落度だ。
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