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「……終わりって、徐々にゆっくり始まるものなんだと思ってた。」
「終わりなんかじゃないよ……。」
「……。」
「私たちが同じ夢を追っていたら、遠く離れていたっていつか必ず巡り会える。そう……信じている。」
彼との関係が終わったわけではない。
彼が大切な人であることは変わらないのだから。
けれども私たちは離れてしまったら、きっと恋人には戻れない。
友達と呼ぶには近すぎて、恋人と呼ぶには温かすぎた。
「……旅行、連れて行ってあげられなくて御免な。」
「……私こそ……ごめんなさい。勝手にひとりで、決めてしまって。」
「唯の単独行動の癖は、昔から見ていたおかげで随分と免疫がついたよ。」
「……。」
「危なっかしくて放っておけないのに……自分の意見は絶対に曲げなくて、頑固で……。」
家族や、颯や百香以外で、こんなにも私のことを分かってくれる人は初めてだった。
私は、いっちゃんだから一緒に夢を追いかけたいと思った。
彼に出会わなけば、私の心はまだ、あの8年前の冬から何も変わらずにいた。
本当に心から感謝しているのに、今ここで告げる言葉は全て、彼を宥める気休めにしかならないような気がして、何も言えなかった。
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