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それから数日経って、私は帰国する準備を始めていた。
これから先のことは、まだ何も考えていない。
慶子さんに、治療とリハビリを行うのに勧められた病院が札幌にあるので、落ち着いたらまずそこに行くつもりだ。
「ねえ、いっちゃん。この帽子ちょうだい?」
いっちゃんと一緒に荷造りをしながら、部屋の片づけをしている。
私が手にしているのは、いっちゃんが大学時代から愛用していたニット帽だ。
「そんな使い古しでいいの?」
「うん。これがいい……いっちゃんのトレンドマークだから。」
この帽子を見ると、私はいっちゃんを思い出す。
その思い出は、どれもキラキラ輝いていて温かいものばかりだ。
「……いいよ、持っていきな。」
そう言って、彼はニット帽を手に取って、私の頭にかぶせた。
満面の笑みで。
「それにしても、来週経つなんて……急すぎるよ。もっとゆっくりで良いんじゃないの?」
「うん。そうなんだけどね……。」
帰国を決めた日、すぐに成田行きの飛行機を予約した。
ちょうど2週間後の出発チケットだ。
そして、その日は2日後にまで迫っていた。
帰国を急いだのには理由がある。
ひとつは、今ちょうど父が実家にいて、暫くは一緒に居られる時間が作れると思ったから。
そして、もうひとつは………。
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