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「私ね……昔、約束をしたんだ。」
「約束?」
「今思えば、夢物語みたいな口約束だった……。」
金環食が近づいてきている。
約束を交わした頃は、9年も先の未来を遠くに感じていたのに、もう手の届くところまで来てしまっている。
「でも私は……その約束を、1日も忘れることができなかったの。」
「……。」
「……本当は、早く忘れてしまって楽になりたかった。」
たったひとつの約束が、この9年間ずっと心を蝕んできた。
忘れようとすればするほど、鮮明に蘇る記憶。
そんな日々を繰り返し、いつからか忘れることを諦め、思い出を心の奥にしまい込んでしまった。
久しぶりに開けた思い出の鍵は、色褪せることなく過去を手繰り寄せる。
すると、いっちゃんが黙ったままの口を漸く開いた。
「出会った頃、唯は……いつもそんな顔、していたよね。」
「……そんな顔って、どんな顔?」
「どこか遠くを見ているんだ。俺なんか到底届かないような、ずっと遠くのものをいつも見ていた。
だから余計に……届きたいって思った。
簡単に手に入れられるものなら、こんなにも愛おしくならなかった。」
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