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いっちゃんの手が、私の手に重なる。
こんな風に彼に触れるのは最後だ。
最後だから……。
不器用なりに、想いを言葉に代えないといけないと思った。
ひとつの恋を、また後悔の色に染めてしまわないように。
「……今の私があるのは、いっちゃんのお陰だって思ってる。
綺麗事とかじゃなくて、傍にいてくれた人がいっちゃんだったから、本当に救われたの。
今更、信じてもらえないかもしれないけれど……それだけは、知っていて欲しかった。」
「……信じるよ。唯は、そんなくだらない嘘は吐かないから。」
「あと……プロポーズの言葉も嬉しかった。」
雅さんの墓前で、いっちゃんが不意に呟いたプロポーズの言葉。
あの時は驚きで頭が真っ白になったけれども、彼の誠実な想いが伝わってきて、本当に嬉しかった。
彼と出会い恋をして、今日まで重ねてきた数々の思い出は、どれも私には贅沢すぎる幸せな時間だった。
涙よりも笑顔で溢れている数年間の思い出の傍らには、いつも彼がいてくれた。
「一緒にいてくれて、本当にありがとう……。」
そして、ひとつの物語が終わりを告げる。
優しくて温かくて、少し切ない気持ちだけを、
この場所に残したままで ―――
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