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芯から冷え込むような澄んだ空気が、心を落ち着かせる。
昔からずっと感じてきた空気だから。
颯が運転してくれる車の助手席に乗り、見慣れた風景を横目で眺める。
「そういや先週くらいから、おじさん帰ってきているみたいだけど。」
「うん、知ってる。」
「ふうん。じゃあ暫くは、家族水入らずでゆっくりするのか?」
「そうだね……。お父さんと二人きりなんて小学生以来だから、少し緊張しちゃうかも。」
けれども、緊張よりも楽しみのほうが遥かに大きい。
家族というのは不思議なものだ。
遠く離れて過ごしてきた時間は長かったのに、傍に居ると何故か心が落ち着くのだから。
颯とこうしている時間もそうだ。
短い会話を繰り返し、幾度となく沈黙は訪れるのに、全く気まずさを感じない。
沈黙の間に居眠りすらしてしまいそうだ……。
「………別れたの?」
「え?」
「郁也さんと……。そんな話、百香から聞いたけど。」
「……別れたっていうか、これからは自分のことで手一杯になるから、今までと同じようには居られないと思ったの。」
「ふうん……。いい人だったのに、残念だな。」
そうは言いつつも、あまり興味のなさそうな素気ない口ぶりだ。
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