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病気のことも、いっちゃんとのことも、百香には包み隠さずに全てを話した。
けれども、颯には何も伝えていなかった。
帰国することすらも。
敢えて話さなかったわけではなく、普段から颯とは、そこまで頻繁に連絡を取り合っていたわけではないので、話す機会がなかったのだ。
「……仕方ないよ。私の人生に……あの人は巻き込めない。」
「そっか。でも俺……お前と郁也さんは、何があってもずっと一緒にいるんだと思ってた。」
「……そうだね。」
私もそうだと思っていた。
平穏で静かで幸せな生活だったから。
それだけ、いっちゃんは私にとって大きな存在だったのだ。
こうして傍に居ないことは、思っていた以上に寂しくて仕方ない。
今も遠い空の下で夢を追いかけている彼の笑顔が愛おしくて堪らない。
「……なぁ……唯。」
「ん?」
「……お前、本当に弾けなくなったのか?」
「……うん。」
予想していた質問に、落ち着いた口調で返事をする。
隣を見ると、前を向いたままの颯の横顔が目に映る。
暫く彼の横顔を見つめていると、その口元が微かに動いた。
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