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「……ごめんな。」
「え?」
「郁也さんのことも病気のことも、百香から聞いていたんだけど……どうしてもお前の口から聴きたくて。」
私に気を遣ってくるなんて、颯らしくない。
調子が狂い、思わず気丈に振る舞ってしまう。
「ふっ……颯のくせに、変な気遣わないでよ。」
「颯のくせに、って何だよ。人が心配してやってんのに……」
けれども、なんだかんだ言っても、こうやって傍に居てくれることには感謝している。
何もかも失ったと思っていたから。
そう……。
あの、冬の日のように。
思い返せば、あの日もいちばんに駆けつけてくれたのは、颯だった。
白銀に包まれたこの街並みを見ているからこそ、余計にはっきりと思い出す過去のこと。
「ありがとう……。」
「ん? 何がだよ?」
「私がピンチの時は、こうやって傍に居てくれるなぁって……。」
「……当然だろ。」
そう言って、得意気に頬を綻ばせる颯。
昔は喧嘩ばかりしていたし、煩わしいことのほうが多かったのに。
今では、その大切さが心から身に染みている。
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