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「で、何の話してたっけ?」
「あんたがビーフシチューの肉だって話でしょ。」
「あ、そうそう。」
「正直、どうでもいいんだけどね。肉だろうが人参だろうが。」
そう言いながらも、自然におしぼりとメニューを渡し、颯もそれを当然のように受け取っている。
こういう雰囲気が昔とは少し違って、私の知らないふたりの関係図が見えて新鮮だった。
ちょっとドキドキしちゃうかも……。
「ん、どうかしたのか?」
熱烈な視線に気づいた颯からの問いかけに、私は焦って大げさに首を振る。
すると、その目は急に優しさを増した。
「ふっ……変な奴。」
「どうせ変な奴ですよ。」
「ごめん。つい本音が出ちまった……」
「慰めになってないし!」
百香とは違って、私と颯の関係は昔から変わりそうにない。
存在の大切さに気付いただけ。
そしてそんな私たちに、百香が寂しげな視線を送っていたことなんて、この時の私は全く気付かなかった。
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