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一歩。
また、一歩。
何となく足が赴くまま先を歩いた。
夕暮れを背景に、その場所にいたことは、偶然でしかなかった。
風が冷たくなってきたな……。
そろそろ、帰らないと……。
それでも離れがたくて、最後に建物の周りを回ることにした。
閉館時間を過ぎたので、職員の人の姿がある以外は、人通りは少なかった。
だからこそ、目についた。
他とは違う雰囲気の人影を。
変わってしまったものもあるけど、変わらないものの方が多い。
この言葉を、身を持って実感した。
すぐに分かってしまった。
それが ―――
彼だということに。
同じように私を捉えた彼の視線。
まるで時を切り取ったかのように、空気の流れが止まった気がした。
私たちは暫く動けずに、距離を保ったままその場に立ち尽くす。
そして、吸い寄せられるように歩幅を寄せた。
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