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お互いの姿を確認しながら、今ここにある現実に目を向ける。
こんなことが有り得るのだろうか……。
この街に着いたのは、ついさっきのこと。
繁華街から徒歩圏内で近かったという理由だけで、ただ立ち寄ってみただけだった。
彼女との――― 唯との思い出に触れられる場所だと思ったから。
札幌より幾分か肌寒い風を感じながら、それでも当時の記憶は胸の奥を温めてくれる。
それだけでも、ここへ来てよかったと心から思っていたのに……。
「……どうして?」
「え……?」
「どうして、ここにいるの?」
大きく目を見開いた唯は、少し声を震わせながら訊いてくる。
驚いたときの彼女の仕草は、昔と少しも変わっていない。
「……ここには、思い出が沢山詰まっているから。」
「……。」
「俺にとって、この先もずっと大切にしていたい思い出だから………」
「そっか……私と、同じだね。」
そう言って、唯が目の前にやってきた。
8年という月日で、目が離せなくなるくらいに綺麗な女性へと変わった彼女に、尋常ではないくらい鼓動が増す。
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