1

3/7
前へ
/34ページ
次へ
彼は今度は鞄を掻き回し、何かを取り出した。 「このワックス、めちゃくちゃお気に入り」 ワックスを手に取り、容器をあたしに渡す。 掌に収まる程小さく、かわいいピンクの容器。彼によく似合う。 見る見る内に綺麗に決まる彼の髪。いわゆる無造作ヘアーってやつ。 その手際の良さに、見とれてしまった。 「それ、あげる」 「え?でもこれ…」 「試供品だから、あげる」 八重歯を見せて笑うのが、彼の癖。小柄な体格もあいまって、幼い印象を与える。 ―――二年経った今も、この時のワックスをあたしは持っている。一度も使わないまま…。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加