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彼は今度は鞄を掻き回し、何かを取り出した。
「このワックス、めちゃくちゃお気に入り」
ワックスを手に取り、容器をあたしに渡す。
掌に収まる程小さく、かわいいピンクの容器。彼によく似合う。
見る見る内に綺麗に決まる彼の髪。いわゆる無造作ヘアーってやつ。
その手際の良さに、見とれてしまった。
「それ、あげる」
「え?でもこれ…」
「試供品だから、あげる」
八重歯を見せて笑うのが、彼の癖。小柄な体格もあいまって、幼い印象を与える。
―――二年経った今も、この時のワックスをあたしは持っている。一度も使わないまま…。
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