2935人が本棚に入れています
本棚に追加
========================
びしょ。
びしょ。
ぽた、ぽた。
時刻は13時を過ぎている。
沙耶は最後の砦、もとい、コクスィネルコリーヌで、マンデリンのホットをテイクアウトして、あの憎い高層ビルへと向かっていた。
道ですれ違う人々が、ぎょっとした顔をして、沙耶のことを指差して隣とひそひそするか、見えないふりをする。
「ママー!あの人、傘忘れちゃったのかなぁ!?!」
「しっ!!」
裕福そうな親子。
悪気の全くないキラキラ坊やが、沙耶を心配そうに見つめるけれど、母親は血相を変えて、その子の腕を引っ張った。
「・・・」
沙耶の黒くて長い髪は水分を存分に含んで、ずっしりと重たい。
坂月チョイスのスーツも既に二重に黒く見える。
下着までとは言わないが、ほぼ、パーフェクトに濡れている。
パン屋はそれぞれ1時間待ちか30分待ち。
しかも珈琲屋は開店が10時だった。
電車の移動時間だけでも、40分じゃ到底無理な注文だ。
どこでもドアでもない限り、不可能。
いや、タイム風呂敷もないと、駄目だ。
―あんにゃろう…
沙耶は両手に袋を抱え、片手には珈琲を持ち、汗だくで今日何度目かわからない殺意を覚えていた。
最初のコメントを投稿しよう!