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「秋元さん…度々申し訳ありません…今日は、仕事の引継ぎを行う筈だったのに…」
迷う事無く最上階ボタンを肘で押した沙耶に、後からエレベーターに乗り込んで来た坂月が頭を下げる。
「大丈夫です。坂月さんが、悪いわけじゃないから。」
冷たいを通り越して、じんじんしてきたつま先も、今の沙耶の怒りを静めてはくれない。
「いや、でも…早く着替えて乾かした方がいいですよ。あの、秘書室には、ちゃんと仮眠室もあって、バスルームも用意されていますから。」
坂月が言った途端、沙耶がくしゃみをして、背の高い彼は益々身を縮めた。
「あいつの秘書になるって、こういう嫌がらせを毎日受けるってことですか?」
ややあって、沙耶が呟くように訊ねると、坂月はうーんと首を捻って、沙耶が持っている袋に目を走らせた。
「嫌がらせって言ったら、そうなんでしょうけど、その店って―」
言い掛けた所で、エレベーターが停止し、目的地に着いたことを知らせる。
残りの言葉を待たずして、沙耶は先に降りると、認証が必要なゲート前で坂月を振り返った。
「あ、秋元さん。登録しておきましょう。」
坂月はそう言って、首からぶらさげたカードキーをモニターの下の部分に差し込んだ。
その後ボタン操作を幾つかして、沙耶に掌を翳すよう促す。
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