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ここまで坂月は何度も荷物を持つよう申し出てくれているのだが、沙耶は頑なにそれを断って、荷物を手首に滑らせると、空いた手を翳した。
青い光が、沙耶の掌をゆっくりとなぞって、読み取っていく。
「よし、完了です。もうこれで、秋元さんが翳せば開きますよ。」
ピーっと長い電子音が鳴り終えると、元の画面が表示され、坂月が沙耶を振り返った。
言われるままに、沙耶はもう一度、手を翳してみる。
すると、ピピピっという小気味良い音と共に、画面に『認証成功』の文字が表示され、ゲートが開いた。
その向こうにある自動ドアを抜ければ、今日もまた、磨きぬかれた大理石の床が、宝石のように光っている。
不在の秘書机も、応接のフロアも、変わらずにそこにあった。
「あ、えーと、説明…しま…せんね…」
坂月が沙耶の背中を追うようにして、声を掛けるが、沙耶は一直線に奥へと突き進んで行ってしまう。
「じゃ、私は、、えっと…」
これから起きる『何か』が、怖い坂月は、本能的に安全を探そうと試みる。
「ここで、待ってようっと…」
所在無さげにうろうろして、仕方なく応接セットのソファに腰掛けた。
そんな坂月の動向などどうでもいい沙耶は、後ろを振り返ることなく、一心不乱に両開きの大きな扉に向かった。
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