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沙耶を仮眠室まで案内して、着替え終わるのを待っている間、坂月はテーブルの上にパソコンを広げ、作業を進めていた。
そこへ。
「ちょっと、出てくる。」
ジャケットを羽織りながら、石垣が部屋から出てきたので、坂月は顔を上げた。
「あ、秋元さん、今着替えてるので、もう少しかかりそうですけど。」
「別にあいつは要らない。暫くは使い物にならないだろ。」
言いつつ、石垣の視線は、脇に寄せてある袋に向けられる。
それに気付いた坂月は、困ったように笑った。
「視察なら視察と素直に言えば良かったんじゃないですか?」
「視察?」
石垣が意外そうに訊き返すので、坂月は首を傾げて見せた。
「違うんですか?」
「まさか。あいつにそんなのできるわけねーだろ。」
あっさり否定されて、坂月は拍子抜けする。
「え、じゃなんで―」
「ああでもしないと、あいつ食わないから。じゃ、夕方には戻る。」
短く答えたかと思えば、石垣は既に自動ドアを抜けて姿を消していた。
「…あ、しまった。」
一瞬の後、坂月は慌てて石垣の身辺の警備を手配する為内線を鳴らした。
受話器を耳に当てながら、先程つい、言葉を失ってしまった自分を叱咤する。
要は沙耶の為に用意した朝食だったということか。
「回りくどいというか、なんというか…」
コール音をBGMに、複雑な気持ちが、坂月に独り言を呟かせた。
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