男心と秋の空

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一人残された沙耶は、チッと舌打ちしてから、改めて部屋を見渡した。 リクライニング付きの回転椅子は、腹立つ位に座り心地が抜群だ。 背もたれに背中を押し当てても、ギィとすら言わない。 何を置いたら埋まるんだろうというくらいの大きすぎる秘書机。 今見えるスペースだけをとっても、何畳あるかを考えるだけで、半日はかかりそうだ。 観葉植物もハイセンスな位置に取り揃えられていて、掃除の行き届いている感じも、専属スタッフの存在を伺わせる。 塵ひとつ、落ちていない。 「目、通しておくか―」 急に手持ち無沙汰になった沙耶は、目の前に置かれていた黒革の手帖を手に取った。 ぴったり元旦から始まっている手帖なので、勿論その頃からの予定が書き込まれている。 ぱら、ぱらと捲って見てみると、字体が何度か変化している。 書き込まれ過ぎて白い紙は真っ黒だった。 社長として就任する前も、バリバリ働いていた様子をうかがい知ることができるが、その間辞めさせられた、または辞めた秘書は一体何人になるのだろう。 そして。 日付は段々と今日に近くなってくる。
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