男心と秋の空

49/56

2918人が本棚に入れています
本棚に追加
/430ページ
社長就任のパーティーのあった日―つまり沙耶が石垣にワインをぶっかけた日―も、きちんと予定として記入されていた。 が、その近辺から、字体がまたがらりと変わっている。 前から決まっていたような予定の字は変わらないが、付け足されたような文の字が違う。 「皆、字、綺麗だなぁ…」 男の字が汚いと決め付けているわけではないが、秘書は全員男だという事実に、驚きが口を衝いて出てしまう。 沙耶の方がよっぽど汚い気がする。 「で、今日は―、と。」 漸く今日の欄まで辿り着いたかと思えば、何の事はない、栞の紐がちゃんと挟まれていた。 「うぉ、みっちり。」 午前中は比較的空いているかと思いきや、会議、会議、会議と3連チャン。 タイムスケジュールを人差し指でなぞり、細かい指示を確認していく。 「えーと、今は、と。」 一度部屋の時計を確認し、再び手帖に向ける。 時計の針は、既に16時を回っている。 「げ。なんかよくわかんないけど、まる鶴って何だろ。」 15時に丸の中に漢字で鶴と書いてあって、取引、となっている。 「っていうか、大丈夫なのかな?あいつ、いるよね?!」 やばいっと小さく叫んで、沙耶は勢いよく席を立つと、奥の部屋へと向かった。
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2918人が本棚に入れています
本棚に追加