男心と秋の空

51/56

2918人が本棚に入れています
本棚に追加
/430ページ
難しそうな書類は数多くデスクに載っているけれど、きちんと整理されて並べられているのがわかる。 それを視界の隅に捉えながら、沙耶はどうしてこんなことになったんだろう?と今一度自問していた。 ―格闘技じみた朝を迎えて、パン買いに走って、雨に打たれて、置いてけぼりって…秘書って言えんのかな。 静かな場所に一人でいるせいか、急に疲れを感じ始める沙耶。 ―石垣が一体何を考えているのか分からない。坂月さんも、身辺警護みたいなこと言ってたくせに、これじゃ私意味ないし。 ぷぅ、と無意識に片頬を膨らませ、とりあえずこれからのスケジュールを把握しておくか、と、踵を返した。 ―のだが。 「うわ?!」 慣れないヒールが、部屋に敷かれている絨毯に引っかかり、バランスを崩し― 「っとと…」 思わず、すぐ後ろにあったデスクの上に手を着いた。 「あっ…」 まずいと思った時には、遅かった。 順序良く並べられていた書類がずれて、沙耶の手も滑ったが、踏ん張ったせいでくしゃりと歪み、しかも数枚は床に落ちた。 ―やばい。。 沙耶の脳裏に、さっき坂月から与えられた忠告が浮かぶ。 ―社長は極度の潔癖です。 背筋に冷たいものが走る。 ―うっかりでも社長のテリトリーに置かれている物に触れることがないよう、細心の注意を払ってください。
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2918人が本棚に入れています
本棚に追加