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―やばい。
咄嗟に背後を振り返るが、開いたままの扉の向こうにはまだ誰も居ない。
「…多分、こんな感じ…」
さっきの角度なんて詳しいことは覚えていないが、なんとなく揃えて、拾った紙を載せて、皺になった書類を手でのばす。
潔癖、というものがどんなものなのか、沙耶はよくわからないが、多分このくらいなら大丈夫だろうと思った。
「よし。」
一通り整え終えると、沙耶は今度こそ、慎重に踵を返し、社長室を出た。
「そうだ、珈琲…」
一息吐きたい気持ちにかられ、さっき坂月から教わった給湯室にあるコーヒーメーカーを使って珈琲を淹れてみようと思い立つ。
7畳程の給湯室には、冷蔵庫もIHコンロもキッチンも、オーブンもレンジも揃っている。これで包丁とまな板などの器具があれば、本格的に食事も作れるし、お菓子だって焼ける。
「んーと、なんだっけな。」
吊り戸棚の中に入っている缶の中から、珈琲豆なるものを見つけ、取り出そうと沙耶は手を掛ける。
少し高いそれに、沙耶は爪先立ちになって―
バン!
「うわ。」
給湯室のドアが突然開いた音がしたと同時に、沙耶はバランスを崩し、届きかけた缶も戸棚から転がり落ちた。
バサー、と転んだ沙耶の頭に珈琲の粉が見事にぶちまけられる。
「うわっぷ…」
吸い込まないように思わず口を結んだ。
そこへ。
「お前さ、俺の机いじった?」
冷ややかな声も、落ちてくる。
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