記憶が引き連れてくる香り

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======================== 「なぁ、本当に大丈夫なの?」 不安げに駿がそう言うと同時に、沙耶はカーテンのレースを取り外す。 「大丈夫って言ったでしょ。」 振り返らずに沙耶が答えると、駿は弱ったように頭を掻いた。 「だってさ、今のご時勢、ありえねぇよ。秘書、とか言ってたけど本当は姉ちゃん、やばい仕事に手出してんじゃないの?騙されてるとか。」 「駿が心配になるのは尤もだけど、まぁ信頼できるのよ。色々あって、ね。それに、無一文の私を騙したところで何の得もないじゃない。」 手にしたレースを丁寧に畳むと、開いていたダンボールに入れてガムテープを貼る。 引越し先の事を、駿に伝えたのは昨日。 初の仕事を終えて、石垣を自宅まで送り届け、ロールスロイスを断って家まで歩いて帰った後。 駿が怪しむのも仕方ないとは予想していたが、言葉に出して説明していく内、沙耶自身も首を傾げる始末。 何故なら沙耶たちに宛がわれた家は、一等地にあるマンションの最上階で、勿論駅近。 今の場所とは比べ物にならないほど広い、らしい。 沙耶も実際には見ていないのだが、メゾネットタイプだと聞いている。 秘書とはいえ、こんなに優遇されるものなのか。
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