記憶が引き連れてくる香り

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それから沙耶は、傍に置いてある自分の鞄を手に取り、玄関に向かう。 秘書に週休二日制は存在するのか、と考えていたら、普段、土日は休みでOKだと坂月が教えてくれた。 のだが。 「あとは業者が来るから!よろしくね!」 今週は例外らしい。 「おう。任せとけ。」 駿が頼もしく答え。 「次会うのは、新宅だね。」 と、嬉しそうに笑った。 沙耶は時間を確認しながら、そんな弟に小さく頷く。 「いってきます。」 「いってらっしゃい。」 今朝は外に出ても、ロールスロイスは停まっていない。 ―断れて良かった。 沙耶は満足げにそれを確認すると、置いてあった自転車の籠に鞄を入れた。 ペダルを漕げば、風に乗って秋の香りが漂ってくる。 ―珍しい夢を見たな。 金木犀の香りに、沙耶は朝方見た夢を思い出していた。 いつも見るのは決まって、男の子との指切りの時と決まっていた。 なのに、自分も忘れていた出来事がまさか出てくるなんて。 ―何処だったっけな。なんて話したんだろう。 切り取られた部分は、夢でも出てこなかった。 ―ま、いいか、そんなこと。 特に大したことではないか、と、沙耶は首を振って、ペダルを漕ぐ足に力を入れた。
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